筋膜細胞

Rolfing

先日の続きで、ちょいと筋膜についての追加知識です。

前回登場したイタリアの人体解剖学・運動科学の教授Carla Stecco氏。実は2018年のFascia congress で筋膜に新しい細胞を発見したと公表し、主な話題となった記事から抜粋していたのですが、その話題の種が筋膜細胞 (Fasciacyte) です。前回は、こいつが実際にどんな役割を果たすのか、いまいちはっきりとしていなかったので、詳細を省いてただ蘊蓄を垂れていました。なんとなく纏まった気がするので、ぼちぼちご紹介していきましょう。

筋膜とは、コラーゲンやらエラスチン・ヒアルロン酸 (HA) そして筋膜細胞など様々な細胞から構成されています。その一味であるコラーゲンとヒアルロン酸は、線維芽細胞が生産担当と以前までは考えられていたらしいのですが、実はこの筋膜細胞がヒアルロン酸の生産を担当し、筋膜の滑動と滑走機能のための主要な役割を担っているという事です。

このヒアルロン酸、 略称 (HA) はサメの軟骨やら、ちょっといかがわしいCMでよく聞きますが、保水性が高く水分保持により粘性があり、女性に大人気の様です。変形関節症や美容整形の際に注射使用の医療承認もある、おそらく高須クリニック御用達の成分です。寄り道はこのぐらいにして、本題に入りましょう。

その筋膜細胞により合成されたヒアルロン酸。私たちが飲んだ水を吸収し主要な水貯蔵システムとして、水を豊富に含んだECM(*細胞外マトリックス)を作ります。そのECM から私たちの細胞は、彼等自身に水分を引き出します。つまり、細胞内の水分補給(本質的な水分補給)は、水を豊富に含んだECMや筋膜マトリックスより行われています。

その筋膜細胞は、接着されたり粘着してしまった筋膜繊維を圧縮したり、剪断したりすることで活性化されます。つまり、水分量を回復させ細胞レベルで水分補給をするために、身体全体でできるだけ多くの筋膜に刺激を与える必要があるということですね。ただ単に水を飲むだけでは本質的な水分補給に至らず、私たちの体外に出ていくだけでの様です。

また注目される理由の一つとしてこの筋膜細胞、他の細胞とは異なる挙動をするようです。様々な筋膜の層に滑走面を作ることができるらしい、いわゆるジョーカーみたいな渋いやつです。筋膜にある一定の層に存在する奴らは、その層を伝ってあらゆる筋膜に行きながら、ヒアルロン酸を撒き散らしているのでしょう。そんな、素晴らしいカードだと捉えてよろしいのではないでしょうか。と、勝手に解釈しております。

彼女が発表したもう一つの画期的な発見は、EMCの線維芽細胞がエストロゲン(いわゆる女性ホルモン)のような性ホルモンに反応するというものです。これは女性の方、特に耳寄りな情報です。ホルモンは、排卵と月経の間にコラーゲン1型からコラーゲン3型へとその生産をシフトするため、繊維芽細胞に指示を出すそうです。これは、結合組織の状態と PMS(月経前症候群) の可能な相関関係があることを示しているようです。

では説明してみましょう。コラーゲン1型とは、脊椎動物に最も大量に存在し、骨や真皮に大量に含まれています。皮膚や骨の強さ・柔軟性を生み出す働きを持ち、私たちが活動し運動時に確実に増加しています。コラーゲン2型は、軟骨や眼球の成分として活躍しています。そしてコラーゲン3型は、コラーゲン線維とは別の細網線維と呼ばれる細い網目状の構造を形成し、細胞などの足場を作るとてもエレガントで薄いクモの巣のような形をして、内部のコミュニケーションに最適な役割を果たします。なお非常に興味深いことに、3型コラーゲンのバランスが崩れていると、簡単に付着し炎症を起こしやすくなる手間の掛かる存在です。

つまり、筋膜細胞は保水性・粘性を生み出すヒアルロン酸担当で、コラーゲンを担当する線維芽細胞の拮抗役として、筋膜繊維への刺激により活性化していく。こいつらは、あらゆる層を成す筋膜組織で働きながら、滑走面を形成する優れもの。一方コラーゲン担当の線維芽細胞はホルモンバランスにより、多量に存在する1型から3型へと生産量を変えることで、身体内コミュニケーションの役割として細胞が増殖する際の足場を形成しますが、すぐに炎症起こしたり付着したりと手の掛かる奴ら担当です。

筋膜細胞がヒアルロン酸、線維芽細胞がコラーゲンと上手に役割分担され、瑞々しくリッチネスな筋膜を身体内に形成していくわけですが、筋膜をターゲットにしたほとんどの治療法(筋膜リリースや筋膜ストレッチ療法、ロルフィング、SIなど)は、主に「圧やストレッチ」を使用しています。それらは線維芽細胞を活性化し、コラーゲンを合成するようです。ということは、ヒアルロン酸担当の筋膜細胞の活性化、どうすりゃいい?

さて、ここである事を思い出しました。同様にお気付きの方もおられると思いますが、細胞が増殖するために足場が必要であり、その足場を作るためには安心安全な「場」が必要。だと説いている御仁、確か「代官山のアニキ」と勝手に呼ばれている田畑さんです。

もしかしてこの情報をWikiで編集したのはご本人かもしれませんが、イールドの明らかに異なったアプローチは、古典的ロルフィング手法と一緒くたにはできませんので、効果の期待大です。もしやイールドの手法が、筋膜細胞活性化に貢献していたら、雄たけびあげての拍手喝采どころか名声赫赫間違いないでしょう。いやいや、コラーゲン3型と筋膜細胞、ごっちゃになってます。

*細胞外マトリクス(細胞外の空間を充填する物質であると同時に物理的な支持体の役割)

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